山本 一博 | (鳥取大学医学部 病態情報内科学分野(第一内科)) |
北岡 裕章 | (高知大学医学部 老年病・循環器・神経内科学) |
心不全の発症率は加齢とともに上昇するため、我が国でも心不全患者数が増加しているのは必然のことです。ただし、臨床現場では単なる心不全患者数の増加にとどまらない高齢心不全患者の増加という新たな問題が生じています。高齢心不全患者では左室駆出率の保持されたHFpEFの頻度が高いという点に加え、腎機能障害、糖尿病など合併疾患を有する患者が多いことも特徴として挙げられます。また、低栄養、サルコペニア、うつ状態、認知症なども高頻度に認められ、最近は「frail」が高齢心不全患者の特徴を示すキーワードとなっています。これらは治療を進める上で大きな問題と認識されているものの、介入方法が定まっていません。また、退院しても独居あるいは高齢の配偶者との二人暮らしという患者が少なくないために自宅での自己管理が十分に行えず、これも予後悪化、特に高い再入院率の原因となっています。このような問題に加え、高齢心不全患者の治療目標をどこに定めるべきかという大きな命題が残されたままとなっており、我が国では緩和医療への取り組みが遅れています。
医学、医療のみならず社会システムも含めた多面的なアプローチが必要とされている高齢心不全患者への治療指針を確立するには、人種や社会システムが異なる海外の知見を当てはめることが困難であり、本シンポジウムでは我が国の現状に立脚して議論を深める場としたいと考えています。